タンク、アタッカー、ヒーラーという伝統的なクラスの役割(Holy Trinity)は、オンラインゲームに非常に大きなメリットとデメリットを与える要因となるが、最近ではクラスロールがないことを売りにするMMOも増えている。
古くはD&D、MMOではエバークエスト等が確立したこのゲームデザインについて、その必要性を改めて考えてみる。
MMORPGに三位一体のクラスロールは必要か
■Holy Trinity(三位一体):
オンラインゲームに限らず、RPGでは盾役、攻撃役、回復役の3つのロール(サポート役がこれに加わることもある)が存在することは少なくない。
このデザインは各クラス、各キャラクターのアイデンティティを確立し、非常にわかりやすい戦略を立てることに貢献している。
特に複数のキャラクターで構成されたパーティシステムのゲームでは、ヒーラーを必ず一人入れておいた方がいいというような考え方が自然と生まれることになる。
■MMORPGにおけるクラスロール:
アトランティカやグラナド・エスパダのような複数のキャラクターを操作できるオンラインゲームもあるものの、ほとんどのMMORPGで操作できるキャラクターは1体であり、クラスはそれそのものがキャラクターの個性の一つとなる。
最初に一つのクラスを選んだら、ずっとそのクラスを続けるか2次職に進むゲーム、クラスを途中で変更することができるゲーム、複数のクラスを扱うことのできるゲームなど様々ではあるが、クラスの持つ意味はゲームデザインによって異なる。
Holy Trinityのメリット:
プレイヤーが自分のクラスの役割と個性を理解しやすい
タンククラスであればモンスターの敵視を集めて攻撃を自分に集中させたりモンスターを誘導したり、ヒーラークラスであれば仲間を回復するといったような、戦闘において自分がすべきことが明確に設定されることになる。
誰が何をすればいいのかということをすぐに判断でき、パーティを組んでいることの意味をわかりやすくすることができる。
別のクラスをプレイした時に新鮮さを感じられる
例えば、アタッカークラスをずっとプレイしていた人がサブキャラを作ってヒーラークラスをプレイすれば、これまでとは違った視点や違った動きが要求され、コンテンツそのものは同じであっても新鮮さを感じることができる。
コミュニティの形成に一役買う
MMORPGで最も重要なのはコミュニティの形成であり、明確なクラスロールによりパーティプレイの必要性を増加させることでプレイヤー同士の交流を促し、ギルド等のコミュニティの形成に一役買うことができる。プレイヤーが必要とする、必要とされる関係を作るのが容易である。
クラスバランスが取りやすい
明確なクラスロールを設けたこのゲームデザインは開発者には非常によく知られているため、明確な役割がないものよりも各クラスのバランスを取りやすい。
また、開発者にとって各クラスが覚えるスキルの効果等を決めたりするのも比較的楽になる
Holy Trinityのデメリット:
全てのロールが揃わないと遊べないコンテンツ
単にパーティを組めばいいだけでなく、全てのロールが揃わないと攻略が不可能なインスタンスダンジョンなどがコンテンツの中核にあった場合、メンバーを集めなければならないという部分でフラストレーションになる可能性がある。この部分はゲームのコンテンツの種類やデザインによっても変わってくる。
ソロプレイ時の効率・難易度の差
ヒーラーに特化したようなクラスはソロプレイの効率が悪い場合が多く、そこに煩わしさを感じてしまうこともある。タンクやヒーラーのようにパーティプレイで真価が発揮されるようなクラスが、ソロプレイで不便さを感じてしまうということも起こりやすくなる。
また、タンクの敵視上昇スキルはPvP時やソロプレイ時には全く意味が無い
特定の役割に特化しているがゆえにソロプレイ専用のインスタンスダンジョンなどが作りづらくなる
アタッカークラスに人気が集中しがち
タンクやヒーラーはアタッカーに比べると少し地味な印象もあったり、上記の効率面の問題もあったりなど、不人気職になりやすい傾向がある。
タンクやヒーラーが求められるとわかっていてもアタッカーに人気が集中するのは避けられない
パーティプレイ時の負担がロールごとに異なる
どのロールが大変で、どのロールが簡単というのはコンテンツごとに異なるものの、三位一体のクラスシステムはいずれかのクラスに大きな負担を強いることが多い。
傾向としては、後半にいくほどヒーラーの難易度は上がり、タンクの難易度は下がる。逆に慣れていないうちはタンクの負担が高かったりする。実際はアタッカークラスの働き次第でタンクとヒーラーの難易度が大きく変わる。
同じ役割のクラスが複数ある場合、より安定した方が好まれる
アタッカーでいえば一番DPSが高いクラスであったり、ヒーラークラスであれば安定した回復量を持っているクラスなどが好まれやすくなるということ。このあたりはクラスバランスの問題にも関わるが、同じロールの別のクラスと比較されるのは避けようがない
■考えられる解決策
スキルベースのシステム
プレイヤーは自分の好みや戦術にあわせて武器やクラス、スキルビルドを選択し、敵の攻撃を交わして・・・という具合に、プレイヤーの腕や戦略にほとんど委ねてしまう方法だ。
そもそもヒーラーが必要なのは、タンクが敵の攻撃を受けるという状況になるからで、敵の攻撃をプレイヤーの腕によってかわすことができればその必要性は低くなる。
当然だがゲームの敷居と難易度は高くなる。また、ゲームの設計者にとって、プレイヤーが疲れすぎないバランスを考えるのが非常に難しいという点もある。
ハイブリッドクラス
1つのクラスがアタッカーとヒーラーの両方を兼ねることができるなど、複数のロールの特性を1つのクラスが持っているシステム。パーティメンバー集めが楽になるだけでなく、ソロプレイ時のクラス差が小さくなる。
しかし、このハイブリッドシステムだけではパーティプレイ時の戦略面では明確な役割のあるクラスシステムとほとんど変わらない上に、クラスごとの個性の設定が難しくなるという欠点もある。
クラスに明確な役割を設定しない
最近のトレンドでもあり、誰もが当然のように考える方法。そもそもタンクやヒーラーがなければそういった問題を考えることすら必要ない。また、戦闘そのものもダイナミックで緊張感のあるものになる。
しかし、今度は別の問題を考えなければならなくなる。
遠距離クラスと近接クラスのバランス、各クラスの個性やバランス、タンクやヒーラーがいない戦闘における敵視の扱いやダメージの量、そして全体的な戦略や敵のAIなどなど、これらを解決できる優秀な開発者が必要となる。
■近年のMMORPGにおける解決方法の例
Aion・・・タンク・ヒーラークラスにもある程度のDPSを持たせている。複数種類の武器を装備できる。
RIFT・・・1つのクラスが様々な3つのスキルツリーを選択でき、途中でも変更可能
Guild Wars 2・・・全てのクラスが自己ヒールスキルを持ち、明確なロールは存在しない。インスタンスを強制しない
FF14・・・1体のキャラクターが複数のクラスを取得できる
Blade & Soul・・・タンクのみ2~3職。ヒーラーなし。タンクも他のクラスと同等のDPSを持つ
Echo of Soul・・・ヒーラーなし
Darkfall・・・明確な役割なし。インスタンスダンジョンなし。
ArcheAge・・・3種類のクラスを同時に扱える。インスタンスを強制しない
黒い砂漠・・・全てのクラスがアタッカー扱い。攻撃を避けて戦うタイプの戦闘
EverQuest Next・・・何十ものクラスが存在するが、伝統的なクラスロールは避ける方向
最近のMMORPGではこういった解決策が取られているが、Holy Trinityによって割を食ってしまったゲームも存在する。例えば2011年にロンチされた「TERA」はノンターゲッティング方式の戦闘を売りにしていたが、同時に非常に制限の強いクラスシステムが存在していた。ノンターゲッティング方式のアクション戦闘なら、双剣や大剣を使うクラスが好まれるのは当然であり、アクション性の低いヒーラーが不人気になるのはだれでも予想できたことだったが、結果としてパーティメンバー集めに苦労するという事態になっていた。
ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼアも、DPSロールがコンテンツファインダーの待ち時間が長いという状態になっていたりと、やはりHoly Trinityの特徴的なデメリットが顕著に出ている。とはいえ、白魔道士のようなクラスのあるファイナルファンタジーでは、ヒーラークラスがないというのは少し難しいのかもしれない。
ここ1、2年、そして近い将来にリリースされるMMORPGを見てみると、クラスシステムの扱いは様々で、Holy Trinityから脱しようとするものもあればそうでないものもあるが、EverQuest Nextや黒い砂漠のようなビッグタイトルが伝統的なクラスロールを避けているのは注目すべきことだろう。これは長年停滞してきたMMORPGが次のステップへ進むためには必要なことなのかもしれない。
また、FirefallやThe Division、Defianceといったシューター系のゲームもMMORPGに定義されており、MMORPGというジャンル自体の定義が曖昧になりつつあるということも忘れてはならない。
設計者は多くの場合、本当に分析することをせずに単純に仕組みをコピーするのは簡単だと判断しているように思える。メインクラスの三位一体は多くのゲームでうまく作用するが、重要な分析をせずにコピーしただけだとゲームデザインは制限されることになる。設計の本質を見ることで我々は良い部分を識別し、良くない部分をより良いシステムにリファインすることができる。
これはゲームに差異と潜在的に優れたゲーム体験をもたらすだけでなく、大勢の中で一際目立つようなユニークなセールスポイントになる可能性がある。トップデザイナーは別のゲームではうまくいっている理由と、自分たちのゲームではどうやって改善するのかを理解するために、ゲームシステムを分析することに時間を使わなければならない。
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