PCゲームの最大の利点は、柔軟なグラフィックス設定にあるといって良いだろう。
グラフィックス設定を変えることで、比較的低スペックなマシンでもゲームが動くようになり、ハイエンドマシンでは非常に高品質なグラフィックスでゲームを楽しむことができる
しかし、アンチエイリアスやアンビエントオクルージョン、DOF、異方性フィルタリング、HDRなど、あまりPCゲームや3DCGに詳しくない人にとっては「なんのこっちゃ?」となることもあり、せっかくのグラフィックス設定を疎かにしてしまっていることもあるだろう。
本稿では、PCゲームの初心者に向けたグラフィックス設定項目のわかりやすい簡単な説明をお届けする。
解像度
グラフィックス設定のオプションを開いてまず目につくのが解像度だろう
ここではレンダリングの解像度を設定することができる。
基本は自分が使っているモニターと同じ解像度にするのが良い。
最近は1920 x 1080や2560×1440が主流だが、次世代的には4K画質(3840 x 2160)が増えてくるのかもしれない。
解像度を上げれば上げるほど負荷が増え、フレームレートが下がることになる。
フレームレートがどうしても気になるならモニターの解像度より低いものを使うという選択肢もある。
上の画像では、720p、1440p、5120×2880が比較されているが、モニターの解像度が1440pであるため、720pではアップスケーリングが、5120×2880ではダウンスケーリングが行われている。
モニターよりも低い解像度を選択した場合、モニターの解像度に引き伸ばされるためグラフィックスの品質が荒くなる。
動的解像度(ダイナミックレゾリューション)
動的解像度は、映像処理の負荷に応じて解像度を自動的に変化させ、フレートレートを維持しようとする技術。
これにより、解像度を犠牲にしても目標のフレートレートを維持することができる。
処理が重い場面で解像度を自動的に下げて、軽くなったら元の解像度に戻すということが行われる。
フルスクリーン / ボーダレス / ウィンドウ
どういったウィンドウモードでプレイするかというオプションも必ずと言っていいほど存在する。
フルスクリーンでプレイした時が一番フレームレートが高くなるというのが一般的だが、差はわずかなので自分の好みにあわせるのが良いだろう。
ボーダレスはフルスクリーンと同じく画面いっぱいにゲーム画面を表示するわけだが、バックグラウンドのウィンドウを選択するときに切り替えをする必要がない。
ボーダレスは実質的にはウィンドウモードなのだが、枠がなく画面いっぱいに表示しているような状態だ。
ゲームの中にはフルスクリーンでないと明るさを調節できなかったり、垂直同期が効かないというものも存在するので注意。
複数のモニターを使っている人や、ゲームをしながらブラウジングなど他のことをしたい人はボーダレスやウィンドウモードをおすすめする。
垂直同期
垂直同期に関する細かな説明はウィキペディアなどを見ていただくとして、垂直同期は快適なゲームプレイには必要な設定だと言える。
垂直同期を取ることでスクリーンテアリング(tearing)を防ぐことができる。
スクリーンテアリングとはモニター側とゲーム側で描画のタイミングがずれて画面が崩れること。水平方向に線がちらつくようなものがそれに該当する。
垂直同期をONにすると、モニターのリフレッシュレートに同期が取れるフレームレートに固定されることになる。
例えばゲーム側は80fps生成できていても、60fpsに固定されたりする。
余分なフレームが生成されないのでGPUがフル稼働しないという利点もある。
しかし垂直同期にもデメリットはある。
PCのスペック次第では、フレームレートが60fpsと30fpsをいったりきたりするような、非常に鬱陶しい変動が発生することが考えられる。
また、垂直同期を設定したことで入力遅延が発生することもある。
本当にわずかなラグだが、ゲームのジャンルによっては致命的となるため入力にラグを感じたら垂直同期設定を切ってみるということを一度してみるのもいいだろう。
最近はNVIDIAのG-Sync、AMDのFreeSyncといった解決策も存在している。
アンチエイリアス
アンチエイリアシングとも言われるこのグラフィックス設定は最も良く目にするものだ。
Windows付属のペイントソフトで斜めに直線を引いて拡大すると、ギザギザと階段状になってしまっているのが確認できるだろう。これが起こることをエイリアシングと呼び、それを抑えるのがアンチエイリアシングだ。
何かしらのアンチエイリアスを使用しないと、画面にひどいちらつきが生じる可能性がある。
下の画像をクリックして拡大してもらうと、アンチエイリアスが適用されていない方はジャギー(ギザギザ)がかなり目立ち醜くなってしまっているはずだ。
アンチエイリアスには様々な種類があり、どれがどんな効果なのかよくわからないという人も多いだろう。
それぞれの方式にはメリットとデメリットがある。
2x 4x 8x 16xといった数字はサンプル数だが、数字が多いほどアンチエイリアスの効果が強くなると考えれば良い。フレームレートにかなりの影響を与えるので注意が必要。
もう少し細かく見ていくと
- SSAA・・・SuperSampling。最も基本的だが最も高いクオリティのアンチエイリアス。しかし、サンプル数を増やすととてつもなく重い。
- MSAA・・・MultiSampling。SSAAよりも効率的で最も一般的なアンチエイリアス。
- CSAA・・・Coverage Sampling。NVIDIAの技術で、MSAAを効率化したもの。
- CFAA・・・Custom-filter。AMDの技術で、MSAAを効率化したもの。
- FXAA・・・Fast Approximate。他と違いポストプロセスのアンチエイリアスで、イメージがレンダリングされた後に適用される。非常に軽く、フレームレートへの影響が少ない。NVIDIAが開発した。
- MLAA・・・Morphological。FXAA同様にポストプロセスのアンチエイリアス。全てのエッジに適用される。FXAAより重い。RadeonのCatalystドライバーの設定でオンにできる。
- SMAA・・・Enhanced Subpixel Morphological。ポストプロセスのアンチエイリアス。MLAAとMSAAを合わせたようなもの。SweetFX等でオンにできる。
- TXAA・・・Temporal。NVIDIAのKepler世代以降のGPUで使用できる。MSAAとCG映画で使われるような様々なフィルターを合わせたもので、プレイヤーキャラクターが動きまわった時のちらつきを低減できるようだ。その分重いのでハイクオリティなグラフィックスを求める人向け。
- TAA・・・どのメーカーのGPUでも利用できる。過去のフレームと現在のフレームの情報を組み合わせることでジャギーを大幅に低減する。動いた際にゴーストが発生しやすい(映像がぼけやすい)
- CMAA・・・Conservative Morphological Anti-Aliasing。インテルが開発したアンチエイリアシング技術。FXAAを改良したようなもので、エッジの鮮明さを維持できる。
- MFAA・・・Multi-Frame。NVIDIAの最新技術。Maxwell世代以降のGPUで使用可能。下の動画で説明されている。
- TSR・・・Temporal Super-Resolution。アンリアルエンジン5専用の技術で、超解像を利用してジャギーを低減する
- DLAA・・・Deep Learning Anti-Aliasing。TAA同様に過去のフレームの情報を利用することでジャギーを低減する。ディープラーニングという名前の通り、AIの機械学習によって得られた情報を用いている。NVIDIA GPUのTensorコアが必要。
▼NVIDIAの「MFAA」
FXAA以外のアンチエイリアスはフレームレートにかなり影響するので、それを頭の隅に置いておきたい
テクスチャフィルタリング
異方性フィルタリング一択。できれば16x以上
詳しくは4Gamer.netの記事を見ていただきたいが、カメラから離れた位置のテクスチャが粗くなるのを低減させる技術だと思えば良い。
下の画像では、左のバイリニアフィルタリングでは橋の奥の方の床がボケているのに対し、右の16x異方性フィルタリングはくっきりと表示されているのがわかる
なお、異方性フィルタリングのパフォーマンスへの影響は小さいのでためらわず設定しておきたい。
異方性フィルタリングはアニソトロピックフィルタリング(Anisotropic Filtering)とも呼ばれる。
アンビエントオクルージョン
ここも説明すると長くなるので簡潔にするが、アンビエントオクルージョンは太陽等や照明といった光源からの直接的な光だけでなく、物体に反射した光にも配慮した陰影を生み出す技術だ。
2007年のCrysisに、CPUを使わないSSAO(Screen Space Ambient Occlusion)が使用されて以降、ゲームのグラフィックスオプションとして一気に普及した。
下の画像ではアンビエントオクルージョンの有無によって駒と駒の間の明るさが異なっている。
直接光による影ほどはっきりとしていない柔らかい影が付け足されるというようなものだが、見た目のインパクトは大きい。
SSAO、HBAO、HDAOはリアルタイムでこのアンビエントオクルージョンを生み出す技術だ。
SSAOを改良したものがHBAOとHDAOだと思えば良い。
HBAOはNVIDIA、HDAOはAMDの技術。
PCスペックと相談してとりあえずオンにしてみることを推奨する。
HDR
HDRはハイダイナミックレンジの略称で、写真などにも使われる。
コンピュータグラフィックスにおいてはハイダイナミックレンジレンダリングのことを指す。
現実の世界では明るい部分と暗い部分のコントラストが非常に大きく、これは一般的なディスプレイで表示することはできない。
下の画像の右はHDRレンダリングをしていないが、この場合、光があまり届かないような暗い場所は陰影が表示しきれず全体的にかなり暗くなってしまう。
一方HDRレンダリングをした左側は全体的には明るくなり、細かな陰影が表示できるようになっている。

この他にもHDRレンダリングによって暗い場所から明るい場所へ出た時の「眩しさ」を表現することが可能となる。
ブルーム
Bloom(ブルーム)は非常に明るい光が物体の周囲に溢れ出るような効果。

良い加減であれば幻想的な映像を生み出すが、やり過ぎると恐ろしいほど眩しく、目が痛くなる。
ブルームはフレームレートへの影響は非常に小さい。
好みに応じてオン・オフを切り替えるのが良い。
グローバルイルミネーション
壁や物体に反射して拡散・屈折した間接光を再現する。光の表現(照明効果)がより現実に近い自然なものになる。

現実では太陽光や電灯のような光源だけでなく、壁や物体、水などに反射した光も全体の明るさや色、陰影に影響を与える。グローバルイルミネーションではこれを再現し、より自然な映像を作り出すことができる。
モーションブラー
モーションブラーは「ぶれ」を表現するポストプロセスの技術。
レースゲームなどでは速さを表現するために効果的に使われるが、ゲームのジャンルによっては目が疲れるだけと嫌う人も多い。
人間の目は意外と簡単に錯覚をしてしまうため、モーションブラーエフェクトによって映像がよりスムーズに見えることがある。
パフォーマンスへの影響は小さい。
DOF(被写界深度)
DOF=Depth of Field=被写界深度
写真や映像で、ピントがあっている範囲はくっきりと映り、その範囲外はボケて映る。この範囲を被写界深度と呼んでいる。
現実でも我々の目は焦点が合っていない部分はぼけて見える。
しかし、ゲームでは全ての部分がはっきりくっきりと表示されてしまい、リアリティに欠ける場合がある。
DOFによって写真や映画のような映像を作り出すことができる

DOFはそれがどのように実装されているかによってパフォーマンスへの影響が異なる。
視覚的には美しくなることが多い
ボリューメトリックフォグ
霧や煙、蒸気、塵などへの光の通過と散乱を計算し、立体的に表現する。
リアルな映像表現が可能になるが、非常に負荷が高い。

サブサーフェススキャタリング
半透明の物質の内部で散乱する光を再現する技術。
例えば、人間の皮膚に強い光を当てると、光が内部で拡散し、光の一部が外に放出され、指の内部が赤みを帯びつつ半透明に透けて見える。サブサーフェススキャタリングはこれをCG上で再現するもの。

レイトレーシング
光の反射や屈折とそれによる光線の軌跡を正確に計算し、映像に反映させる技術。
膨大な計算が必要なため非常に負荷が高く、最近までゲームで使われることは滅多になかった。
光の反射や陰影、物体への映り込みなどを極めてリアルに表現できる。

DLSS / FSR
AIを利用した超解像技術。
目標とする解像度よりも低い解像度でレンダリングし、その後、アップスケールで解像度を上げるというもの。これにより、高解像度でも負荷を抑えてフレームレートを向上させることができる。
以前のアップスケール技術と比べて、格段に優れた画質を維持することができる。ただし、残像や映像細部の破綻が発生することがある。
DLSSはNVIDIA GPU専用の技術。
FSRはAMDが開発したもので、どのGPUでも利用できる。

参考: PC Gamer
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