5月20日、韓国で開催されているNexon Developers Conference 15で、MMORPG「TERA」の日本ライブサービスプロデューサーで前ライブチーム長のキム・ナクヒョンことHarns Kim氏が講演を行い、その中でTERAにまつわる開発秘話が明かされた。
Blueholeの「ライブチーム」は、TERAの開発チームとは異なる組織で、大規模アップデートの開発ではなく、早急なバグ修正やイベント関連、それぞれの国にあったコンテンツ制作などを担当しているとのこと。
北米からの反発
キム・ナクヒョン氏によると、TERAの開発初期はエリーンではなく、「キャスタニック」の種族に力を入れており、初期の頃のポスターのほとんどはキャスタニックを中心に描かれていたとのこと。
当初のエリーンは独立した種族ですらなく、「ポポリ女性」という扱いで、アーマンやバラカと同様に、一部の物好きな人ための種族として優先順位はかなり低かったという。
ポポリ女性から「エリーン」という独立した種族に生まれ変わった理由は、北米コミュニティからのフィードバックだった。ポポリ女性(エリーン)を見た北米の人々から激しい拒否反応があったという。
北米のゲーマーたちはゲームの世界観を大切にしており、エリーンの存在は理にかなっておらず納得出来ないという意見だった。ポポリ男性が動物の外見で、ポポリ女性が人間のような外見だったため、「この種族はどうやって繁殖するのか?」という質問があったという。実際、欧米ではエリーンをゲームから削除するかどうかという議論にまで至っている。
北米からの反発を受け、ポポリ女性はポポリから分離され、急遽「エリーン」という新しい種族となった。これがTERAでエリーンが人気を得る最初の一歩となった。
日本運営からの“要望”
Blueholeにとって、当初から日本市場はTERAにとって重要で、かなり気を使っていたという。そのため、韓国サービスから半年で日本市場に進出することになったようだ。
しかし、日本サービスの開始から少しして一気にプレイヤーが離れていってしまい、結局北米サービスのロンチに焦点を当て、日本サービスへの投資を削減することになったとのこと。
そんな中、「戦略的放棄」が行われてしまった日本サービスの運営チームから、開発のBlueholeに「エリーンのスクール水着」を開発してほしいという要望があった。
スクール水着の外観はそんなに難しくないという理由から、本当に軽い気持ちで開発して日本運営チームに渡したという。この時は誰もこれがヒットするとは思っていなかったとのこと。
しかし、エリーンのスクール水着は、これ一つで韓国サービスで販売したあらゆる水着アバターの売上の合計を上回る結果になった。
このおかげで、「水着」「体操服」「メイド服」などのコスチュームアイテムが日本で次々と発売されることになった。エリーンの制服は、日本のハンゲームにおける販売記録を樹立したという。
エリーンのコスチュームアイテムの日本でのヒットがあり、日本サービスへの投資も再び開始されただけでなく、日本でのコスチュームアイテムの販売実績によって当時TERAが悩んでいた『基本プレイ無料化』を推進することが可能になったようだ。
北米サービスは、開始当初は「ディアブロ3」と「ギルドウォーズ2」に挟まれていて芳しくなったが、無料化して時間が経った現在ではTERAのサービスが行われているあらゆる地域の中で北米の売上高が最も高くなったとのこと。
キム・ナクヒョン氏は、「このように色々な事が最初の計画とは違ってくることがあります。だからといって、全く計画を立てないほうが良いわけではありません。何もしないのは最悪であり、予想と異なる状況でも対応していく能力が重要です。何よりも重要なのは諦めない精神です。もし当時、日本サービスの調子が良くないから水着の開発はしないと決めていたら、今のTERAはなかったでしょう。」と語っている。
変化し続けるトレンド
TERAの開発を始めた2007年当初、TERAにとって「クエスト」は目標ではなかったという。
「自分たちが一番上手くやれそうなことをやろう」という考えで、TERAは戦闘とグラフィックスなどの開発に集中した。
ところが、World of Warcraftの拡張パックやAionが成功を続ける中で、MMORPGにとってクエストが重要な要素になっていった。Blueholeもその流れに逆らえず、一歩遅れながらもTERAにクエストを埋めていくことを始めた。
しかし、Blueholeはすでに他の未来像を持って、プロセスを組んでいたため、そこに強引にクエストを入れて面白くするというのは難しかったという。面白くするというより、最高レベルまでクエストの数が不足しないように埋めるのが精一杯だったとのこと。
また、「コミュニティ」の変化も大きかったという。
TERAの開発チームには過去のコミュニティ中心のゲームで大きな成功を収めた経験のある開発者も多かったそうだが、コミュニティの変化を気にせずにあまりにも安易に考えてしまっていたようだ。
昔は人がたくさん集まればひとまずコミュニティが作られ、その中でプレイヤー自ら遊ぶ方法を見つけていたが、TERAがサービスを開始する頃になると、まともに設計されていないコミュニティには最初から人が集まらなくなっていた。
プレイヤーはコンテンツだけ楽しんだ後はコミュニティにかかわらずゲームを離れた。
一方で、TERAのような大規模なプロジェクトは基本プレイ無料化するのは非常に難しいことだったが、わずか2ヶ月の間に全世界のすべてのサービスを基本プレイ無料化することができ、世の中の流れに乗ることができたようで、時代の変化をうまく受け入れることができた事例だとしている。
ダイエット並に難しいバランス調整
キム・ナクヒョン氏は、すべての開発者はゲームのバランスを取ることが重要なのは知っているが、このバランスを実際にうまく取ろうとするのはダイエットのように難しいと例えている。
特にMMORPGはバランスの修正が難しく、数百、数千人がプレイするためあらゆる状況を実験してみることも大変で、経済システムなどは実際にゲームに導入されるまでは予測自体が不可能なレベルだという。
「それでも、バランスは投資しただけ返ってくると言いたい」と話す。
TERAはロンチ直前に「特攻隊」という15人規模の専門テスター部隊を結成し、1日10時間ずつ2ヶ月間ゲームをプレイさせ、開発者がテスターの横について問題点をリアルタイムに把握し、それを修正するという作業を行っていたという。
このおかげでTERAの初期のインスタンスダンジョンのバランスは良かったとのこと。
一方で、このテスター部隊をもっと早く作っていれば、インスタンスダンジョンだけでなくフィールドでもテストを行って、レベルデザインをもっと上手く調整できたとし、長期的な計画でゲームを作る場合はバランスに多くの時間を投資しなければならないと述べた。
キム・ナクヒョン前ライブチーム長は、TERAで学んだ教訓を次のように挙げている。
TERAで学んだ8つの教訓
- 成功は意外なところで起こる
- 世界は思ったよりも速く変化する
- 楽しさはアイデアからではなくバランスから出てくる
- プレイヤー数の維持は本当に重要である
- 親交は揮発するが、実績は残って信頼になる
- 大規模な制作というのは、責任回避との限りない戦い
- 開発と経営は分離することができない
- オンラインゲームはエンターテインメントサービス業である
ソース: inven, THIS IS GAME
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