(※2017年の過去記事です)
昨今、海外で「ルートボックス」への批判が加熱しているが、日本でスマートフォンゲームのガチャがおおむね受け入れられたのは何故か。
現在海外で議論を巻き起こしている「Loot Box」は中にランダムでアイテムが入っている有料の箱だ。
ルートボックスは「ガチャ」と同じくランダム排出型の課金という事になる。
最近、EAの「スターウォーズ バトルフロント2」(PC/PS4/XOne)のルートボックスが大批判を受け、開発元が謝罪したりゲームからルートボックスを削除するなどしたが、炎上は収まる気配がない。
これを機に、ルートボックスがギャンブルなのか否か、禁止すべきかといった議論が広がりを見せている。
Gambling regulators to investigate ‘loot boxes’ in video games – The Guardian
Call to regulate video game loot boxes over gambling concerns – BBC
Hawaii Wants To Fight The ‘Predatory Behavior’ Of Loot Boxes – Kotaku
From Belgium To Hawaii, Potential ‘Battlefront 2’ Loot Box Legislation Would Be Complicated – Forbes
バトルフロント2はmetacriticのユーザースコアがなんと「0.9」
6000人が投票して10点満点中0.9というのは歴史的な低評価だ。
海外では以前よりルートボックスは批判の対象となる事も多く、家庭用ゲームやPCゲームの場合はルートボックスに入っているのはあまりゲームバランスには影響がない、見た目を変えるアイテムや適度な便利アイテム程度に留まっていた。
しかし、バトルフロント2ではプレイヤーの強さに直結する物をルートボックスに入れていたため、プレイヤーの怒りを買ったのだ。
日本のスマホゲーム市場で受け入れられたガチャ課金
日本のスマートフォンゲーム市場では数年前に、ガチャ課金の射幸心を煽る賭博性が問題となり、「コンプリートガチャ」が禁止される等、社会問題に発展しメディアでも多く取り上げられたが、ガチャという課金システム自体は、中に入っているものがプレイヤーの優位性に直結するとしても基本的には受け入れられた形となった。
あの任天堂ですら、ファイアーエムブレムのスマートフォンゲームにガチャ課金を採用したのだ。
ではなぜ海外のユーザーやメディアの間でこれだけ批判や議論の対象になっているランダム排出型の課金が日本のスマートフォンゲーム市場では受け入れられたのだろうか。
過去にはPCオンラインゲームで反発を受けた
そもそも、2000年代中盤から後半にかけ、日本のPCオンラインゲーム業界にもガチャの波が押し寄せたのだが、この時は日本国内のプレイヤーの多くはガチャに反発していた。
当時はガチャでなくともオンラインゲームのアイテム課金が度を越しているとそれだけで評価を落とす事に繋がったわけで、最近のスマートフォンゲームのように、ガチャやルートボックスから強力なアイテムやカード、キャラクターが出て来るようなら炎上してもおかしくなかっただろう。
ソーシャルゲームのブームが起こった時に2ちゃんねる開設者のひろゆきこと西村博之氏も「ソシャゲにお金を使っている人は馬鹿だと思っている」と一蹴し、「大衆を騙す事がビジネス的な成功に繋がる」と語っている。
日本のオンラインゲーム業界で2000年代に一度反発を受けたガチャ課金はなぜスマートフォンゲームでは完全に定着できたのだろうか。
ゲーマーが相手の商売ではなかった
スマートフォンゲームが非同期型のゲームプレイのものが多いというのもあるが、それ以上に筆者が思うのは「ターゲット層が”ゲーマー”ではなかった」からという理由だ。
彼らはゲーマーではなかった。だからガチャには反発しなかった。
かつてのPCオンラインゲームのプレイヤー達のほとんどはガチャ課金で”強さ”が手に入る事がゲームを壊すのを知っていた。だからガチャ課金がPCオンラインゲームに登場した際に強く反発した。これは今欧米で起こっているルートボックスへの反発と同じようなものだ。
そもそもゲームとは、与えられた駒や手札でどうやって勝つか、先に進むかを考え、実行するのが醍醐味の娯楽だ。将棋やチェスでも、パズルゲームでも、FPSでも、RTSでも、MOBAでも、RPGでも、アクションゲームでも格闘ゲームでもそれは不変のものだ。
しかし、近年のガチャ課金は例えるなら、”将棋で最初にお金を払って持ち駒を追加してもらうようなもの”である。棋士やファンは間違いなく反発するルールだが、遊ぶ人の大半が将棋を指さない人ならそんなルールにも強い抵抗はないのではないのだろうか。
スマートフォンというプラットフォームと無料で遊べる数々のアプリは、それまでゲームから離れていた、あるいはカジュアルゲームしか遊ばない多くの人を取り込む事に成功した。ゲームに対する価値観が違う人々が大半を占めるようになったのだ。
彼らにとってゲームバランスに影響を与えるガチャ課金の仕組みは特に問題もなかったし、それよりも見事に射幸心を煽られ、レアリティの高いカードやキャラクターを手に入れたいという気持ちの方が強くなったというわけだ。中には、キャラクターやレアカードを集める事そのものに楽しさを見出しているプレイヤーもおり、「ゲーム」というよりは「コレクション」と捉えた方が良いものも存在する。
大ヒットしたFate/Grand Order。ガチャにより世界屈指の収益を上げる事に成功している。
そういった層のプレイヤーに興味を向けさせ、どっぷりとスマートフォンゲームにハマって、お金を使ってもらえるようにした事は日本のゲーム業界にとってはある意味偉業だったのかもしれない。
異なる価値観のプレイヤーを呼び込んだスマートフォン
装備やアイテムではなく、キャラクターそのものをガチャの景品にしたというのも大きかったはずだ。単純な強さとコレクションの要素、両方の魅力を持った景品が手に入るようにしたのは非常に巧みだった。
本来はゲームを有利に進めるためにガチャを引いていたのが、ガチャを引いてレアなキャラクターを集める事が目的になっている場合もあるという事だ。そういった要素は、日本のサブカルチャーと密接に関わっていると言えるだろう。
キャラクター収集という目的が主なら、(潜在的には)ゲームをしているわけではないからガチャ課金には反発しないという理由もあるのかもしれない。
また、日本では長い間「ゲームは子供が遊ぶもの」という風潮が強かったのと、仕事や学校で忙しく家でゲームをする暇がないという人が多く、スマートフォンを機に久々にゲームを本格的に遊ぶ人、特に大人が多かったのもそれまでのゲーマーとは異なる価値観のプレイヤー層が大量に流れ込んだ要因となっている。
2000年代、MMORPGの全盛期には日本でもかなりのRMT(リアルマネートレード)が横行したわけだが、規約違反だとしても現実のお金で強さを買いたい、あるいは楽をしたい利用者がかなりいたのが事実だ。スマートフォンゲームの「強さを買えるガチャ課金」は、そんな一部の人々のニーズも満たしてくれていたと言えるだろう。巷でよく聞く「札束で殴り合う」というやつだ。
先述したバトルフロント2が対応しているPS4やXbox Oneは「ゲーマーのためのプラットフォーム」だ。そんな場所でパッケージ料金に加えて、強さが手に入る課金システムを導入すれば、強い反発に合うのは目に見えている。
2016年に任天堂が「スーパーマリオラン」をスマートフォン向けに発売した。1200円で全てのステージが遊べるようになるが、これに対して「値段が高すぎる」という意見が相次いだ。その後、「ガチャよりは幾分良心的だろう」という声も多くあがった。
スーパーマリオランの価格に対する意見は、日本のスマートフォンゲーム市場でガチャ課金が受け入れられた理由を語る上で最もわかりやすい例だと言えるだろう。
かつてPCオンラインゲームで一度は反発を受け、現在ルートボックスが海外で議論の真っ只中のランダム型アイテムの販売形態は、スマートフォンという日本人の生活スタイルに合ったプラットフォームで従来のゲーマーとは異なる価値観のユーザーが大量に流入し、ゲーム側も彼らのニーズを満たした事で定着できたのではないだろうか。
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