MMORPGのクローズドβテストはゲームのデータがワイプ(削除)されるとわかっていてユーザーはテストに参加するわけだが、これを利用して海外の研究機関や大学が「世界が終わりに向かう時の人間の行動の変化」を分析した。
ニューヨーク州立大学バッファロー校、テレフォニカリサーチ、カタールコンピューティング研究所、ハマド・ビン・ハリーファ大学、高麗大学校による共同研究。
研究の対象となったのは、MMORPG「ArcheAge」(アーキエイジ)の韓国第4次クローズドベータテスト。
ArcheAgeの4次CBTが研究に使われた理由としては、ArcheAgeの4次CBTが2011年12月8日~2012年2月20日(11週間)という比較的長期間行われた事や、コンテンツのかなりの部分がクローズドベータテスト内でプレイ可能だったという事が挙げられる。
CBT期間が短いと、多くのプレイヤーがゲームに慣れた頃にはテストが終わってしまうということがありえるが、11週間という長期間ではCBT終了間際ではほとんどのプレイヤーがゲームにある程度慣れた状態である。
CBTに参加した約8万人のプレイヤーの2億7500万件という膨大な行動記録を元に研究が行われた。
The mapping principleという論文によると、仮想世界の中でのプレイヤーの行動と、現実世界における人間の行動やふるまいはそれほどかけ離れたものではないという。
終わりが近づくにつれ、社会的側面に改善傾向
分析の結果を要約すると以下の通り。
- 終わりが近づくにつれ、大半のプレイヤーは単にクエストやレベリングといった進行を諦めるだけという傾向が強かった
- 外れ値として、一部のプレイヤーは無差別PKなどの反社会的行動が増加したが、明らかに広範囲に広がりを見せるような行動変化ではなかった
- もともとPKを好んでいたがCBT終盤でPKの頻度が減少した、CBTの終わりが近づくにつれ大幅にPKの頻度が増加した、もともとPKを好んでいてCBTの終盤でもそれまでと同様にPKを積極的に行っているなど、PKerはいくつかのアーキタイプに分類された
- ゲーム全体の社会的な側面はいくつかの点で改善された
- プレイヤーのチャットの発言内容を分析すると、CBTの終わりが近づくにつれて集団感情は少しずつポジティブになっていった
- CBTの終わりが近づくにつれ、プレイヤーの他者との社会的相互行為が増加した
- ゲーム内メールの使用数が増え、大人数コンテンツや高レベルクエストを遊ぶためにパーティを組むプレイヤーもさらに増加した
- CBTの最後の瞬間まで残っていたプレイヤーの中で小さなグループが一時的に作られ、新たな社会関係が形成されたことが確認された
- ゲーム内通貨の支出比率は9週目にピークとなったが、CBT4週目から最終週まで大幅な変化はなかった
- CBTの最後の日だけは明らかにプレイヤーの行動が変化。レベル上げやクエスト、ゲーム通貨の取引、貿易といった行動は劇的に減少した
- CBTの最後の日にログインし、サーバーがダウンする前に自発的にログアウトしたプレイヤーの方が、最後まで残り続けたプレイヤーに比べてPKを好む傾向にあった
論文の題名には、マルティン・ルターの格言「たとえ明日世界が滅亡しようとも、今日私はリンゴの木を植える。」をもじって、「世界がワイプされるのであれば、私はリンゴの木は植えない。」とつけられている。
少なくともArcheAgeのCBTでは最後の日には明らかにプレイヤーの行動は変化していたわけだ。
今回の研究では、CBTの終わりに近づくにつれてプロソーシャルな(向社会的な)ふるまいが増加する兆候があるという経験的証拠を発見できたという。
一方で、CBT最後の日を除いては明らかにそれまでと異なる行動変化が社会全体に広がるということはなかったようである。
この論文は以下のサイトで閲覧することができる(リンク先ページの右側のDownloadから)
I Would Not Plant Apple Trees If the World Will Be Wiped: Analyzing Hundreds of Millions of Behavioral Records of Players During an MMORPG Beta Test
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