Nexon Developers Conference 2019 (NDC 2019)で、Blade & Soulで2009年から2014年までクエストやゲームシナリオのプランナーを担当したnormgamestoryことイ・ジニ氏が「ゲームにおけるストーリーの構造」について講演した。
MMORPG クエストのストーリーが面白くない理由
- ゲームのストーリーは、そのゲームが追求している要素によって性質が変わってくる
- コンソールのシングルプレイRPGが追求するのは「冒険」
- スマートフォンやブラウザ向けのコレクション型RPGが追求するのは「成長」
- コンソールのRPGでは冒険に目的が生まれるようにストーリーも作られ、ゲームの中にストーリーを語るのためのツールも多い
- コレクション型のRPGでは過程が省略されて結果が中心になるため、ストーリーテリングのために活用できる要素が少ない
- このため、結果が中心となるコレクション型RPGには自動戦闘のようなものがあり、テキスト主体でストーリーが語られる
プレイヤーとキャラクターの関係に応じたストーリーが必要
- ゲームごとにストーリーの方法論は異なっているが、その構造を理解することが重要
- MMORPGやVR/ARゲームのストーリーがあまり好評でないのは、構造がなぜ異なるのかを開発者が理解しておらず、自分達のゲームの構造を考慮せずにストーリーを制作しているから
- ゲームの分類をする際には「ジャンル」を思い浮かべるが、基準になるのはジャンルではなく「キャラクターとプレイヤー」
- ゲーマーから良い反応を引き出せるのはプロットではなくキャラクター
- キャラクターが中心のMOBAに携わり、その重要性を再確認できた
- RPG、MOBA、ARゲーム等、ゲーム毎に少しずつプレイヤーの役割は変わる
- プレイヤーとキャラクターの接点が多いほどゲームへの没入度は増加する
- 映画やドラマのように、主人公となる人物が1人いて、3人称視点で描かれるストーリーが最も作りやすい
- VRゲームは自分自身が主人公であり、プレイヤーの代わりになるキャラクターは存在しない1人称視点のストーリーになる
- MMORPGの場合、主人公はプレイヤーが作ったアバターであり、プレイヤー自身でもなければ完全にプレイヤーと別人格というわけでもないという全く新しい物語構造であり、制作が難しくなる
- 映画で重要とされる登場人物の内的葛藤はゲームで表現するのが難しいため、主人公に弱点のようなものを持たせて、主人公が成長しなければならない理由にすることがある
- ゲームでは世界を脅かす存在のように大きなスケールの問題を作るという事も重要となる
- 「なぜMMORPGのクエストは面白くないのか」という疑問を解決する糸口になったのは、映画「トランスフォーマー」だった
- トランスフォーマーの映画は一般的に「見どころは多いが、ストーリーは面白くない」という評価をされる
- その原因は「主人公役の不在」だと考えた
- トランスフォーマーには主人公よりも強いコンボイがいるので、主人公が誰なのかという質問は答えにくい
- トランスフォーマーのこの問題がMMORPGの構造と一致する
- 1人の主人公がいる3人称視点の物語は古典的な構造をしている。主人公は問題を解決する能力を備えていて、これを使って問題を解決する過程を経ることになる
- MMORPGのクエストでは、1人では解決できない問題を抱えているNPCが、プレイヤーの助けを借りることでその問題を解決する
- したがって、MMORPGにおいては解決すべき問題を抱える主人公はプレイヤーではなくNPCということにもなり、これにより面白さが半減する
- WoWの主人公はどこの誰であるかが明確ではなく、複数の主人公が存在してもおかしくない
- 一方でBlade & Soulの主人公には特殊な設定があり、3人称視点の物語の特徴を持っているが、Blade & Soulの主人公が大勢存在したらすべてのプレイヤーがクローンのようになるので異常である
- 「MMORPGはゲーム世界でヒーローになるロールプレイ」と定義することができる
- プレイヤーキャラクターの外見はプレイヤーが勝手に設定できるので、特定の外見に関連した台詞は使うことができなくなる
- 没入感を損ねるのでMMORPGのプレイヤーキャラクターは喋らない
- プレイヤーの分身であるキャラクターが喋ってしまうと、プレイヤー自身の意志とは関係ない行動になるため没入度が低下する
- MMORPGではプレイヤーの代わりにNPCがその役目を果たす
- NPCがプレイヤーの代わりに主人公の台詞を言ってくれて、ストーリーとクエストを進行する
- したがって、世界観と空間の設定が重要になる
- MMORPGのストーリーを作る上では、こういった要素全てが大きな制約となってくる
MMORPGはストーリーのために環境を変えられない
- MMORPGのストーリーで重要なのは他のプレイヤーとの関係
- MMORPGは世界を大勢の”主人公”で共有しているゲームであるため、コンソールのRPGのような「唯一の主人公」とは対極にある
- また、MMORPGではすべてのプレイヤーを満足させる必要があるため、特定のプレイヤーにだけ合わせて環境を変えることができない
- NPCが特定のプレイヤーにだけついていってしまったり、モンスターが特定のプレイヤーの手によって消えてしまったりすれば、クエストが進行できなくなる
- MMORPGではインスタンスゾーンを使って一時的に環境を変化させる事があるが、共通のフィールドは状態が維持されなければならない
- 古典的なストーリー構造のゲームが没入感に優れているのは、プレイヤーの行動によって環境が変化するから
- MMORPGは環境に変化を与えるのが難しいため、ストーリーの没入感は低下せざるをえない
- HBOのドラマ「ローマ」では、主人公やメインの登場人物は私たちがよく知る歴史上の人物で、その仲間に架空の人物が登場する
- 「ローマ」の構造はMMORPGのストーリー構造と似ており、MMORPGにおけるプレイヤーはドラマ「ローマ」における仲間の架空の人物と同じ役割
- 主人公の目標をプレイヤー自身の目標に近づけることができれば、没入感のあるストーリーを構成することができる
- MMORPGのサブクエストは極めてNPCの個人的な問題である事が多く、プレイヤーのストーリーだと感じられない場合が多い
- 一時的だが、クエストの進行度に応じてインスタンス形式で環境を変えるシステムなら3人称視点の物語を進行できる長所がある
- ただし、MMORPGが目指すものとは少し違うので、乱発するよりは重要なストーリーを展開する際に適切に使うべきである
- VR/ARゲームについては完全なロールプレイが可能な世界を作るところから出発しなければならない
- ポケモンGOが成功したのは、単にポケモンのIPに力があるだけでなく、基本的に一人称視点で現実空間がゲームの領域に拡張され、ポケモントレーナーの役割を自分自身が行うことができるというロールプレイに忠実なものであったから
- ARゲームではプレイヤーの頭の中に「ゲームをしている」という考え自体が浮かばないようにすることが重要
- ポケモンGOを真似たゲームがヒットしなかったのはナイアンティックほど位置情報を活用できるノウハウがなかったため
- 今後のVR/ARゲームではシナリオライターが技術の変化に対して関心を持っている必要がある
引用元:inven
まとめると、MMORPGではプレイヤーキャラクター=アバターという存在が、自分自身でもなければ、シングルプレイのRPGの主人公のような存在ではないという事や、ストーリーに応じてゲーム世界の環境を変えるのが困難なMMORPGが抱える数々の制約と独特の構造を理解してストーリーを制作していないことが多いため、MMORPGのストーリーが面白くないということだ。
逆にこの構造を理解していると言えるMMORPGが「Guild Wars 2」であり、ギルドウォーズ2ではストーリーが「パーソナルストーリー」という形で全て固有のインスタンス内で行うものになっており、パーソナルストーリーの時だけ他のプレイヤーの存在がない事になり、プレイヤーの選択がストーリーに影響を与えることができるなど、プレイヤーキャラクターを明確に「主人公」として扱える仕組みになっている。さらに、このパーソナルストーリーはクリアすることを強制されない。
実際、MMORPG.comの「最も優れたストーリー主導のMMORPGトップ10」ではギルドウォーズ2が1位に選ばれている。
コメント
面白い記事でした、MMOプレイヤーは色々手伝わされてるだけで事件の傍観者で脇役ですな