World of WarcraftとファイナルファンタジーXIVはよく似た戦闘システムを採用しているが、そこには興味深い細かな違いが多数存在する。
新生FF14の開発が決定した後、吉田直樹プロデューサーは開発スタッフに「World of Warcraft」をプレイするように言ったことはよく知られた話であり、多くの点で新生FF14はWoWのシステムを参考にしていたが、それでも随所に細かな違いがあり、あえて真似なかった部分はFF14の方向性を明確に反映している。
本稿では、海外メディアのMassively Overpoweredに掲載された、「WoWとFF14の戦闘の細かな違い」という記事の要点をかいつまんで紹介する。
WoWとFF14の戦闘システムの差異
1.グローバルクールダウン(GCD)
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | GCDは1.5秒 | GCDは2.5秒 クールダウン中に使用可能なアビリティが多数存在 |
GCDは戦闘スキルを使用した際に、次のスキルが使用可能になるまでの待機時間。 WoWはGCDが短い代わりに、GCD中に使用できるようなスキルは少ない。 長いGCDは戦闘のテンポが遅いと指摘されることがあるが、周囲の状況を確認する猶予を与えてくれる。 FF14の序盤はGCD中に使用できるスキルが少ないが、レベルが上がるにつれて増えていき、新規プレイヤーが戦闘に慣れていくに連れて操作も複雑かつ忙しくなっていくように設計されている。 |
2. スキル回し
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | 優先度が高い順番でスキルを使うのが基本 | 最も効率が良いローテーションでスキルを回す |
FF14のスキル回しはWoWよりも複雑である。 WoWは一通り強いスキルを使い切ったら、しばらく同じスキルを連打することになる。 FF14の場合、例えば「A→B→C→D→E→A→B・・・」というようなスキル回しを維持することが重要となる。 WoWの場合「Aが使用できないならB、BがProcしてなければC、A・B・Cいずれも使えないならD」というようなスキル回しになることが多い。つまり、強いスキルから使うのが基本である。 FF14の方が戦闘中に使用するスキルの数が多いため、特にDPSクラスにおいては、より複雑なスキル回しが必要となる。 |
3. proc(プロック)
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | procは予測しづらい 装備からスキルに至るまで多数のprocがある |
procは予測しやすい procするスキルの数は限定的 |
procとは、一定確率で付与される追加効果のこと。 WoWのスキル回しがFF14より単純なのは、スキルがProcした際に反応しなければならないことが多いためだ。 WoWでは装備にもProc効果がついていることがあるが、FF14ではめったに無い。 FF14のprocは発動率も高く、また、強制的にprocを発動するスキルも多いため、WoWと比べると遥かに予測しやすい。 |
4.リソース管理
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | リソースが溜まったらすぐ使う | シナジーに合わせて使う スキルのクールダウンが合理的 |
MPやクラスごとに存在する固有のリソースの管理について。 近年のFF14ではTPもなくなり、スキル回しが正しければリソースはほとんど気にしなくて良い。 FF14はパーティメンバーとのシナジーを重視する設計になっており、スキルのクールダウンやゲージがたまるタイミング等もほとんど同じになるように設計されている。 WoWの場合、時間と共にリソースが溜まっていき、いち早く使うのが最も効率の良い戦い方とされる。 |
5.蘇生
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | 戦闘中には使用できない蘇生スキルが多い 戦闘中に使用できる蘇生スキルは長いクールダウン |
戦闘中もほぼ無制限に蘇生できる 赤魔道士のようなDPSジョブが蘇生スキルを使用できる |
WoWで戦闘中に使用できる蘇生スキルは10分程度の長いクールダウンがある場合が多く、戦闘中に死亡したら最後まで死んだままであることも少なくない。WoWにおいて蘇生は非常手段である。 FF14では簡単に蘇生できる代わりに、全員生存していないと失敗するボスのギミックが多い。 逆に言えば、FF14の高難易度コンテンツのギミックが全員生きていることを前提としたものが多いのは、蘇生がしやすいからである。 |
6.ヒーラー
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | ヒーラーは基本的に回復に専念 | 攻撃と回復の両方を担う |
WoWにも攻撃に長けたヒーラークラスは存在するが、WoWのヒーラーはレイドの大部分で回復に専念し、余裕があれば攻撃する程度である。 一方、FF14において回復ばかりしているヒーラーは歓迎されない。また、高難易度コンテンツの設計段階でもヒーラーが火力を出す事がある程度念頭に置かれている。 WoWのレイドでは20人全てのパーティメンバーのHPが減る状況が戦闘中終始続くからである。 FF14のボス戦では、要所要所で全体にダメージがあるが、タイムラインがわかっているなら、その攻撃までにHPを戻せば問題ない。また、最近ではタンク自身もかなりの回復力を有している。 ゲームによっては、攻撃面の弱さからヒーラーをやりたがらない人が多いこともあるが、FF14ではヒーラーの人気は比較的高い方である。 |
7.ダンジョンにおける雑魚敵の処理
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | 雑魚敵との戦いを可能な限り避ける | 道中にいるほぼ全ての敵を倒す 初期のダンジョンでのみ一部の敵を無視する |
FF14は仕様変更によって、雑魚敵との戦闘を避けることは不可能となった。 また、雑魚敵を倒さないと先に進めないようになっている。近年では可能な限り多くの敵を集めてAOEスキルでまとめて倒す攻略法が主流となり、各ジョブのAoEスキルが増えている。 対照的にWoWは最小限の敵との戦闘でダンジョンを進行する。大量のmobを集めることは基本的にしない。大量のmobからの攻撃には回復が追いつかないためだ。有名な「Leeroy Jenkins」の動画では、大量のmobに絡まれてパーティが全滅する光景を目にすることができる。 FF14においては、ダンジョンで敵をまとめることについて長年論争が繰り広げられてきたが、最近では開発方針的にも敵をまとめることを前提としているような印象もある。 |
8. バランス
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | ロールに基づいたバランスが取られている | 火力とシナジー効果を考慮してのバランスが取られている 同じロールのジョブ全てに似たようなユーティリティスキルがある |
FF14ではパーティ全体のダメージを増加させるようなシナジー効果のあるスキルを覚える場合、そのジョブが出せる火力はシナジー効果を考慮して設計されている。例えば、FF14の黒魔道士はシナジースキルがない代わりに自身の火力は非常に高い一方で、踊り子はシナジー能力が高い代わりに自身の火力は低めである。 また、敵からのダメージを軽減するようなスキルや味方を補助するようなスキルは同一ロール内である程度バランスが取られている。 WoWの場合、ロール内でバランスが取れているのなら、高い火力と強力なユーティリティの両方を備えるクラスの存在が許容されている。例えば、Balance Druidはトップクラスの高火力を持つだけでなく、多彩なユーティリティで味方を補助したり、クラウドコントロールをすることができる。 |
9. ボスの複合ギミック
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | 最初から完全な形で使用 | 段階的に複雑化する |
FF14においてボスが使用するギミックは、まず初めに最もシンプルな形で行われ、2回目には同じ攻撃でも少し複雑なものになっており、3回目には他のギミックと組み合わされるなどしてさらに複雑になっている。 WoWのボスは、ギミックを最初から完全な形で使用し、段階的に複雑化するということはほとんどないが、後半にいくにつれて頻度が高くなることがある。 |
10. ボス戦の設計
World of Warcraft | ファイナルファンタジーXIV | |
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違い | 何十回にも渡って持続的に繰り返されるギミック 基本的に常に敵を攻撃可能 DPSチェックやヒールチェックに高い重点 |
高い精度を要求し段階的に難化するギミック 全員生存していることが前提のギミックがある ボスを攻撃できないフェーズがある |
WoWとFF14のボス戦、特にレイド等の高難易度コンテンツの焦点は少し異なる。 FF14のボス戦では2~3回程度、「非常に難しいギミック」が用意されており、本当に集中するべきポイントが明確に設けられている。FF14の高難易度コンテンツにおける「難しいギミック」はわずかなミスも許されない、1人でも間違えたらワイプというものが多いため、「大縄跳び」と言われることがあるが、そこを乗り越えるとしばらくは落ち着いてボスを攻撃できる状況を得られる。 WoWは1回の戦闘の中で同じギミックが10回20回と繰り返され、ギミックの方針はプレイヤーの忍耐力や集中力を削っていくことである。WoWで見られるような「弾幕系の攻撃」はFF14の戦闘ではかなりレアである。 FF14のボス戦の特徴として、ボスがフィールドの外に行くなどして攻撃できなくなり、その間ひたすらギミックを避けるというものもよく見られる。 |
例えば、グローバルクールダウンに関しては、WoWの後のMMORPGほど短いことが多く、ほぼGCD無し(スキルのアニメーションが終わり次第使用可能)というMMOも2010年代には多かったが、FF14はあえてWoWよりGCDを長くしたことで、アクションが苦手な人でもより楽しめるようになっている点は注目すべき特徴だろう。
また、FF14は「いかにボスとの戦いを壮観なものにするか」という点に力を入れており、「ファイナルファンタジー」らしさの追求というのも違いを生み出す理由の一つだ。
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