ファイナルファンタジーシリーズの生みの親として知られる坂口博信氏と、ファイナルファンタジーXIVのプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏が「第8回 14時間生放送」で対談を行った。
本稿では、当サイト的にその中で注目した部分を抜粋して紹介する。
第1世代MMOとの違い
吉田直樹P/D:
もともとMMOのガチはまりってEQ(エバークエスト)の時じゃないですか。
EQっていわゆる第1世代型というか、とにかく時間を消費させて、でも唯一無二のワールドの中で1個しかない物を手に入れていくみたいな結構ガチガチの。
でも、それに比べるとFF14って逆に凄く横に広いデザインになってるじゃないですか。その辺って当初EQにドはまりしてた時と、FF14をこれだけプレイしてくださってるところで、ここが決定的に違うってところは?
坂口博信氏:
EQやった時に、FF11(の開発を)みんなでやろうぜって、僕は色々あって途中で辞めちゃったんですけど、その後田中とかが引き継いでくれて。
やっぱり期待してたのはエバークエストの焼き直しではなくて、より大衆のもの。深さはあるんだけどもっと広範囲のものって思ってて。FF14今回やったんだけど、ストーリーも入ってるし、なかなかあれは冒険っていうかハードだなとは。
でもいい具合に入っていきつつ、何しろ入り口が凄くスムーズじゃないですか。
古い第1世代のMMOって、街に立った瞬間、俺には無理って感じがありますよね。
吉田:
そうなんですよ。昔、燃え尽きるほどやってると拒否反応でるんですよね。またあの苦労を俺やるのかもう1回みたいな。
坂口:
僕も正直海外のMMOいくつかフィールドに立ちましたけど、うーんやめとこうかなって。
吉田:
1回果てまで行ったゲームがあると燃え尽き症候群じゃないけど、新しいチャレンジはしたいし手は出すんですけど、ベータぐらいの時点で、ダメだ、またあれと同じことを繰り返すのかってなった時にここまでにしておこうって・・・
坂口:
だから(FF14)巧いなとは思いましたよ。ストーリーから入り、コンテンツファインダーって仕組みとかも上手い具合に。まず、パーティ組むことが大変じゃないですか。そこをある程度オートで自動で組ませてやるみたいな、これはなかなか、あんまりコミュニケーションの大変さを感じずにMMOをある程度進められて、ある程度進んだらもちろんコミュニケーションしていくんでしょうけど。なんかそこが巧いなって思いました。
吉田:
あれはFFだからだと思っていて、当初あまりローンチが上手くいかなかったってこともあって、色々作り変えなきゃってところもあって、かつFFだからってのもあって、FFである以上僕の中ではストーリーが最大なんですよ。
ストーリー、世界を救うというか、そこに立ち向かっていく物語でありたいと思った時に、それを絶対の軸にするMMOってなかったんですよ。
ロアはみんなめちゃくちゃ良く出来てるんですけど、自分がヒーローになっていくってなかなかないので、そこをFFだからちゃんと作ろうってので始めたのと、あと、MMOに擦れた人って後からでも来てくれるんですよ。でも、初動とにかく遊んでもらいたいのは、MMOをやったことがない人たちにいつものFFのつもりでいいから、まずとにかくストーリーを追っかけてくださいっていう、特に序盤はそういうデザインにしてたんで。
坂口:
上手くいってると思いますよ。
吉田:
結果、丁寧にやりすぎたらお遣いが多いってすごいMMOのベテランから言われて。
坂口:
それを言ったらRPGはお遣いだからね。ドラクエだってお遣いじゃん。初期のドラクエなんか特にお遣いじゃないですか。
吉田:
頼まれごとをクリアするって基本お遣いですからね。でも、それが繋がって物語になっていくのがRPGの基本ですからね。
坂口:
キャラクターを立てるっていう形でね、お遣いなんだけどそこにキャラクターの生い立ちとか性格付けが入ってくると、全然気持ちが、同じお遣いでも入れ込み方が。
(中略)
『属性』について
坂口:
(四属性が関係ないのは)あれは最初戸惑ったよ。なんでイフリートにファイア効くのかなって。
吉田:
やっぱそうなんですね。僕はもう突き抜けちゃってて。
坂口:
今になっては良いと思いますよ。MMOにとっては非常に良い決断だったなって。
吉田:
火に火がおかしいのはわかる、だけどその先に待ってる、氷の装備ないやつは来るなっていうそこまで全部透けて見えちゃって、だったら属性を無くしちゃった方がみんな幸せ。
坂口:
結局ここはこのレベルで炎が第1段階しか持ってない黒魔はいらねーじゃんって、そうするとMMOの意味がなくなっちゃうもんね。
吉田:
そこを昔は結構努力して、氷系の魔法を覚え、アイスロッド手に入れてからチャレンジしに来い、その黒魔こそ資格があるっていうのが、良い時代もあるし、良いゲームデザインでもあると思ってるんですよ。
でも、今この時代に広くヒットさせたいと思ったら、ムズいなそれはって。でも僕そういうゲームが好きでもあるんですよ。だから僕ガチガチの属性で縛りきった、一生かけてやってきた8人じゃないと倒せない敵がいるゲームとか好きなんですけど。
坂口:
一度炎に浮気したらもうそいつには勝てないみたいなね
吉田:
変な話、黒魔道士でも誓いを最初に立ててもらって、一度でも炎の魔法を使ったら、刻印が刻まれて、一生最高の氷魔法は使えなくなりますみたいな。
坂口:
それFF17でどうですか?
吉田:
売れますこれ?
僕、本当はそういう尖ったゲーム大好きなんですよ。
坂口:
好きなもん作ったらいいじゃん。
吉田:
もうそろそろちょっと尖った・・・。結構吉田は平均的だと言われるんで。
坂口:
MMOは半分コミュニティだからね。それが、氷の属性がなければになっちゃう時点で、前提を作ってるみたいな話だから。
吉田:
そうなんですよね。楽しくなる手前の障壁になっちゃうので。
坂口:
属性って極端だからね。
吉田:
効く効かないっていうゼロイチのパラメータなので
坂口:
難しいよね
吉田:
でも結構ネットでも初動、言われてましたよ。FFなのにイフリートに炎が効く世界を作るとはって。
坂口:
見た目的にもね。
吉田:
でもこれはエーテル界の解釈をしたら、効く炎と効かない炎があるんだよみたいな我々独自の文法はあるんですけど、それ言ってもしょうがないから。
でも最終的に言えば、氷を覚えてない黒魔は来るなになっちゃうから。
坂口:
魔法か物理かで十分じゃないですか。それすら実はよくわかってないから。
吉田:
最近ちょっと曖昧にしてますからね。
坂口:
2つでもこんだけ悩むから、MMOとしては実は良かったんじゃ。
吉田:
この軽減スキル持ってないやつは・・・ってなっちゃうんで。そこが結構悩ましい。
EQとかUOやってた頃は、しょうがないよ効かないんだから、できるようになってから来ようみたいな感じでしたけど。
そこまで時間払えるわけじゃないですし。
坂口:
時間もかかってたもんね、昔は。
死んだらもう置き去りでさ。洞窟の最深部とかで死んだ日には誰も助けに行けないからね。
吉田:
もうシャウトして、金払うからなんとか助けてくれって。
坂口:
トレインとかもするなって言われるけどさ、追いかけられたら逃げるよね。逃げて轢いちゃうんだよね。ゴメンって思うんだけど、あれはやっちゃうよね。
吉田:
逃げずにそこで倒れろって言われるんですけど無理なんですよ。
だってそこ4週間分の経験値の。
坂口:
(デスペナルティで)ごそって持ってかれるからね。
吉田:
こういう話をしてると、結構若い世代のゲーマーはそれはそれで面白そうだって反応してくれるんですよ。
坂口:
FF17はそうなるらしいよ。ハードだぜ?
吉田:
ちょっとやりたくなるって草生やしてるレベルじゃ続かないんだよ。ちょっとじゃダメよ、人生を棒に振り始めるくらいになるんで。
だって僕、EQとFF11でことごとく、有名な理系の学生達が中退した事例を聞きましたよ。
(中略)
メタバースについて
坂口:
なんか今さ、言ってんじゃん。仮想世界、メタバース?意味わかんないよね。
お金優先で動いちゃってるよね。
吉田:
3Dメガネ、VR、メタバースは僕の中で三種の神器なんですよ。
なんか2.5年置きに、なんで可能性のあるものを先行で潰しに来るんだよっていう。
坂口:
なんか今のメタバースのやり方は潰しにかかってるよね。
放っておけば行きつける可能性があるのに。
吉田:
静かにしておいたらもっともっと発展する。
坂口:
気がついたらそうなってるくらいですよね。先に動きやがって。
吉田:
あれを先行投資みたいにお金に変えようとする人が多いんですよ。
凄いんですよ講演依頼が。
坂口:
FF14なんてある意味メタバースじゃない。
そこに彼らの考えているブロックチェーンの仕組みを取り入れちゃったらそうなっちゃうじゃない?
そうすると本来の目的を失っちゃうんだけど。
吉田:
エンタメなんで。僕らは。ゲームなんてエンタメですから。
坂口:
奴らは何も考えないから。吉田さん入れてくださいよって話あるでしょ。
吉田:
僕はメディアとプレイヤーの皆さんの前で一切やりませんって言っちゃったんで。
面白くて、プレイヤーが幸せになって、僕らも儲かるんだったら大いにやればいいと思うんですけど、その道が今のFF14のゲームデザインだと見えないんで、あんまりやる必要ないのかなって。
(中略)
FF14のバグの少なさについて
坂口:
これは皆わかんないんだろうけど、(FF14は)バグが少ない。
普通はね、もっとゲームってバグるんですよ。
こんな大きな改変をしたらね、無人島なんてバグだらけですよ普通は。
吉田:
坂口さん言ってください。もっと言ってください。
坂口:
バグがないなんて奇跡ですよ。
これはね、プログラマー本当優秀だと思う。ありえないですよ。
積み重ねちゃったがゆえの大規模コンテンツだから、ここに手を入れるとここらへんに影響が出るんですよね。
これをデバッグも見抜けなかったりするわけですよ。大変だと思うわ。
吉田:
僕の口からは言えないんで。
今ね、FF14に関わった全開発スタッフが号泣してますよ、たぶん。
坂口:
ここの苦労は変にわかります。
パッチがあたる度に、僕も変な話、バグをまず気にしてプレイしちゃうんですよ。
(バグが)何もないじゃん?おかしくない?って。
あと、期間が短いじゃん、長くても2~3ヶ月。そうするとものすごいスケジュールですよね。デバッグも含めると。
吉田:
こんな頼もしい14時間の締めになったことないぞ今まで。
坂口:
本当、皆さんが思っている以上に大変なことなんですよ。
室内:
私、もともとウルティマオンラインのゲームマスター出身で、FF11をやるためにスクウェアに入ったんですよ。スクウェアに入った時に、今坂口さんが仰ったのと全く同じ感想を持ちました。バグねーなって。
坂口:
ありえないよね。だいたい普通バグだらけになるもんね。
バグも飲み込むのがバージョンアップとかパッチ、MMOってそういうもんじゃないですか。
逆を言うと、バグを利用してやってやろうぜみたいな。楽しんでいくぞみたいな。
吉田:
坂口さんが作ってきた、スクウェアからのバグの少なさは極限まで高まってますよ。
坂口:
ROMカセット並ですね。あの頃はそれで量産しちゃうから。パッチを当てられないからバグが出たら下手したら返品みたいに。
それに近い。
吉田:
うちはそれぐらいの意識です。直せるからとりあえず出せっていうスタッフは全然いないですね。それでも出ちゃうから時にはあれなんですけど。
でも、そういう意味だと、なかなか僕の口からは言えないけど、うちのスタッフのQAも含めた品質管理は世界一だと思っていて、それでもミスが出ちゃうから申し訳ないんですけど。たまに他と比べてくれって思う時が。
坂口:
十分ですよ。ありがたいと思わないと。
こんなに快適に遊べるゲームなかなかないですよ。
吉田:
大体オンラインゲームってメジャーアップデート出るとバグ祭りで。1日目はだいたいお祭りですからね。
オンラインゲームに詳しい開発者も増えたから、随分先回りして、自分がプレイヤーとしてバグを見たから、自分のではこのバグは絶対出さねーぞってのは皆持ってるんで。
坂口:
出やすいバグってあるもんね。
吉田:
あるんですよ。
あれをプレイヤーとして皆で学んできたスタッフが多いのはでかいですね。
終了〜
楽しかった! pic.twitter.com/aVbeYMCNj4— 坂口博信 (@auuo) October 8, 2022
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