スクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S」が2019年9月27日に発売されるが、過去に類を見ないほど既存のコミュニティを軽視している。

Would be pretty shitty to make such a big commotion about DQXI needing to sell big on PS4 & PC in the West to make it a bigger global franchise and not release this new content on those same platforms in some form of DLC.
(ドラゴンクエストシリーズをもっと世界的に大きなフランチャイズにするには、欧米でPS4やPCでももっと売れないといけないのに、これらのプラットフォームでは新規コンテンツをDLCのような形式でリリースしないことで、大騒動を起こしてしまうのはかなり愚かだ)
That would be a middle finger to those who bought it last year.
(これは昨年ドラゴンクエスト11を買った人に中指を立てているようなものだ)N4Gのコメントより引用
上記のコメントは、下記のツイートに関する記事を読んだ海外ユーザーが投稿したもの。
本日のNintendo Directで「ドラクエ11S」には各キャラクターが主人公になる新ストーリーが追加される旨発表がありました。これを受け、スクエニに「PS4版の方でもアップデートやDLCの形で追加されるご予定ありますか」と質問したところ、「未定です」との回答をいただきましたので、ご報告いたします。
— Takashi Mochizuki (@mochi_wsj) 2019年2月14日
世界的な人気シリーズなら大炎上していた可能性
ドラゴンクエストシリーズは、日本国内では絶大な人気を誇っているものの、海外においてはファイナルファンタジーのような知名度はないのが現状だ。
もしドラゴンクエストが世界的に人気のあるIPだった場合、追加コンテンツやシステムアップデートの数々が既存の他のプラットフォームに提供されないという事態は批判の的になる可能性が高い。
既にドラゴンクエスト11をプレイしたPC・PS4・3DSのユーザーに、新規要素を遊びたければフルプライスでSwitch版を購入しろと言っているのと同じだからだ。(※PC版は海外のみ発売)
10年以上前なら、まだインターネットを介したアップデートや、ダウンロードコンテンツといった概念も浸透していなかったのでそういった商法はまかり通ったが、今や発売初日にパッチが当たるのが普通になった時代だ。
ドラゴンクエスト11Sと似たようなことを、グランド・セフト・オート、エルダースクロールズ、FIFA等の世界的な人気タイトルで行えば、既存のファンの反応がどうなるのかは想像に容易い。
ドラゴンクエスト11がマルチプラットフォーム展開しているからこそ、この問題は浮き彫りになってくる。
海外ゲームメディアのGematsuがこの件を伝えた記事には250件ものコメントがついている。同サイトは多い時でも100件、通常は記事あたり10件~20件程度のコメント数であることを考えると、海外のゲーマーにとってもいかに物議を醸しているかが窺えるが、DQシリーズの知名度的に”まだこの程度で済んでいる”と言えるのかもしれない。
過去に「トゥームレイダー」でやらかしているスクエニ
スクウェア・エニックスが2015年11月に「Rise of the Tomb Raider」をXbox 360とXbox One向けに発売したが、Xboxの独占を発表した際に大きな批判を受けたことがある。
前作のトゥームレイダーは、PC・PS4・PS3・Xbox One・Xbox 360でマルチプラットフォーム展開されていたが、急にXboxの独占になったためだ。
PS3・Xbox 360世代からサードパーティタイトルのマルチプラットフォーム化が進む流れの中で、続編がXboxの独占という事態はファンコミュニティに大きな衝撃を与えた。
独占期間は限定されており、後にPC版とPS4版も発売されることになるが、期間限定の独占とわかっていてもこの炎上騒動は非常に大きな広がりを見せた。
また、ビジネスの観点からもこの時の判断は懐疑的で、Gamasutraによると、「Rise of the Tomb Raider」をXboxの独占にしてPS4で発売しないことによる損失は約1億5000万ドル(約160億円)と見積もられている。
結局、スクウェア・エニックスはトゥームレイダーシリーズの独占契約はこの炎上以降しなくなっている。
後にスクウェア・エニックス側はこの独占について「ファンを失望させることはわかっていた」と述べている。
コミュニティの存在を軽視するということ
追加コンテンツや新機能満載の完全版を発売するのは他のメーカーもやっていることだが、今回のドラクエ11Sのように既存の他のプラットフォームに有料DLCやアップデートとしてすら提供しないというのは、プレイヤーのコミュニティを軽視しているという点で、サードパーティメーカーのグローバルスタンダードとかけ離れた戦略だと言わざるをえない。
スクウェア・エニックスはかつてファイナルファンタジーで「インターナショナル版」というのを発売していた過去があるが、インターナショナル版は同じプラットフォームで発売されていたため、ファン達のコミュニティにとってもさほど問題にはならなかった。
トゥームレイダーの一件でも明らかだが、既に形成されたファンのコミュニティを分断させるような事は、ゲームにとってプラスになることはまずない。
今回のドラゴンクエスト11の一件は、トゥームレイダーのXbox独占の時よりも更に酷いかもしれない。既に自社製品を購入した顧客への対応としては、にわかには信じがたいものだ。
ドラゴンクエストの人気がまだ海外では高くないからこそ、こういった戦略を取ることができたのだろう。
ドラゴンクエストXIを最高品質のグラフィックでプレイできるのはPC版だが、ドラゴンクエストXI Sの追加コンテンツはPC版にも今のところ配信される予定はない。(そもそも日本からは買えないが・・・)

ハイスペックなゲーミングPCを持っていて、最高品質&高フレームレートでプレイするためにPC版を購入した人にとっては、追加コンテンツのためにSwitch版をプレイしなければならないというのは理不尽な状況だ。
もちろん、「ドラゴンクエスト11 S」は負の側面だけではない。3DS版がローカライズされなかった海外のプレイヤー達が、3DS版に近い体験も可能だということは歓迎すべき事だ。
また、DQ11をプレイしたことがない人や、3DS版しかプレイしてない日本のプレイヤーにとっては魅力的な製品に感じるかもしれない。
しかしよく考えてみれば、Switchは据置機と携帯機のハイブリッドで画面は1つなので、Switchでのプレイを可能にした時点で、タッチスクリーンやJoy-Con等の仕組みを駆使するゲームプレイがない限り、他のプラットフォームにも移植できることは明らかである。
時限独占ならスクウェア・エニックスが今後対応を改める可能性があるが、それまでは禍根を残すかもしれない。
最初に引用したコメントにもあるように、ドラゴンクエストを世界的なヒット作にすることを目指しているのだとしたら、物議を醸して議論の対象になってしまっている時点で、「かしこさ」が幾らか足りていないのではないか。
それでは最後に、スクウェア・エニックスの開発担当執行役員兼第三開発事業本部長である吉田直樹氏の言葉を紹介して終わりとする。
ファンの信用を失うのは非常に簡単ですが、それを取り戻すのは非常に難しいことです。





コメント