加熱するモバイルMMORPG市場。スマホゲー市場に新たな風を巻き起こすか

多くのメーカーがPCのMMORPG市場から撤退、あるいは既存タイトルのみに注力という方針展開を取る中で、モバイルプラットフォーム向けのMMORPG市場への参入が加熱している。

PCからスマートフォンへ

まだMMORPGの主戦場はPCだと言えるが、徐々にその場がモバイルゲーム市場へ移りつつある。

以前から「剣と魔法のログレス」や「アヴァベルオンライン」といったスマートフォン向けMMORPGは登場していたが、中小規模のメーカーやベンチャー企業が限られた予算で開発したゲームがほとんどだった。

また、国内で人気のモバイルRPGもほとんどはMOタイプのものか、グランブルーファンタジーやFate/Grand Orderのような、いわゆるターン制でフィールドマップを持たないソーシャルゲームが大半だ。

そもそもMMORPGはサーバー維持費や開発費が大きい上に、同期型のコンテンツのバランス調整やレベルデザインが難しく、スマートフォンで多人数のプレイヤーを同時に処理する必要があり、カスタマーサポートの充実や不正対策等、多額の投資をして開発をしようという判断にはなかなか至らなかったはずだ。

しかしここ1~2年でその状況が大きく変わりつつある。

本腰を入れ始めた大手開発会社

過去に大型のPC向けMMORPGを作っていたメーカーが続々とモバイルMMORPG市場に参入を始めている。

大型モバイルMMORPGの先駆け的になったのが、ネットマーブルがNCSOFTのIPを借りて作った「リネージュ2 レボリューション」だ。同作は韓国サービスで驚異的なヒットを記録、わずか1ヶ月で200億円もの利益を同社にもたらした。その後アジアサービスも開始し、アジアで840万アカウントを突破するなどしている。

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リネージュ2 レボリューション

また、日本でも2000年代前半にサービスが開始され人気の高い「ラグナロクオンライン」のモバイルMMORPG「ラグナロク モバイル」を中国のメーカーが開発し、現在も中国のゲーム情報サイトでランキングのトップ10に入るなど人気を維持している。

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ラグナロク モバイル

この「ラグナロク モバイル」のCBTをレビューした海外メディアの「ゴーストタウンのような村にNPCを何人か置いただけの、スマホMMORPGと名乗っているだけの怠けたゲームとは”格が違う”」というのはとても印象的な言葉だ。つまり、それだけ本腰(と開発費)を入れて作られた本格的なMMORPGだったということだ。

また、2017年6月にサービスが開始された「リネージュM」は500万人を超える事前登録数を記録し、こちらもサービス開始1ヶ月で200億円以上の利益を上げ、記録を更新するなど、モバイルMMORPG時代の到来を告げる成果を見せている。

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リネージュM


これらのゲームは、他のプレイヤーもいるフィールドで狩りをしたりクエストをしたり、街やフィールドで出会った他のプレイヤーとチャットをしたり、パーティを組んだり、大規模な同期型のPvPをしたりというような、MMORPG本来の体験が可能であり、それでいて操作系や課金体系をモバイルゲームに最適化しているのが特徴だ。

リネージュMを制作したNCSOFTは、リネージュシリーズ、Aion、ブレイドアンドソウルなど、PC向けのMMORPGメーカーとしての認知度が高いが、彼らがスマートフォン向けのMMORPGを作り、さらに現在開発しているシリーズのフラッグシップタイトルである「リネージュ エターナル」をPCだけでなくスマートフォン向けにもリリースすることを決めるなど、大手MMOメーカーがモバイルMMOへ本格参入したことが窺える。NCSOFTはリネージュMのヒットによって自社株の価値を過去最高額にまで成長させている。

ここ数年で大手メーカーも本格的に力を入れて開発し始めたこれらのモバイルMMORPGを勝手に「第2世代モバイルMMORPG」とでも位置づけることにする。

かつての人気オンラインゲームのカムバック


大手メーカーの参入に関連し、かつて高い人気を誇ったMMORPGがモバイルゲームとしてカムバックをするという現象もみられている。

ネクソンとスクウェア・エニックスが共同開発している「ファイナルファンタジーXI リブート」がその代表例だが、その他にも同じくネクソンの「テイルズウィーバーM」「マビノギ モバイル」、カジュアルMMOとして人気のあった「ラテール」などもモバイルMMORPGとして開発されており、今後こういったカムバックを果たすタイトルがどのくらいあるのか注目されるところだ。

先述の「リネージュM」「リネージュ2 レボリューション」「ラグナロク モバイル」も10年以上前のMMORPGを原作として制作されたモバイルMMOだ。

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ファイナルファンタジーXI リブート

早くもモバイル版が登場するタイトルも

カムバックだけでなく、比較的新しいタイトルを題材としたモバイルMMORPGも続々と発表されている。

2015年にサービスが開始されたMMORPG「黒い砂漠」のモバイルMMORPG「黒い砂漠 モバイル」はスマートフォンゲームとは思えないクオリティのグラフィックスだ。

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黒い砂漠 モバイル

こちらもサービスインから2年経っていない「Tree of Savior」のモバイルMMORPG「Tree of Savior モバイルリメイク」も開発中で、PC版とほぼ同じようなグラフィックスを実現している。

▼ネクソンが公開している「Tree of Savior Mobile Remake」の紹介動画


また、2011年のMMORPG「TERA」も、モバイルMMORPG「TERA M」をネットマーブル社が開発している。

2010年のオンラインアクションRPG「ドラゴンネスト」の開発元であるEyedentity Gamesは、モバイルで初めてMMOに挑戦した「ワールド・オブ・ドラゴンネスト」を開発しており、スマートフォンで敵をターゲットしない”ノンターゲティング方式”の戦闘を導入する。

スマートフォンゲームを原作としたMMORPGも

スマートフォンゲームとして人気のタイトルを原作としたモバイルMMORPGも続々と発表されている。

中国のNetEaseはスクウェア・エニックスと「ミリオンアーサー」IP使用のライセンス契約をし、フル3DのモバイルRPG「叛逆性ミリオンアーサー」を開発している。
NetEaseやTencentなど、中国大手メーカーのMMORPG開発力は近年目覚ましい進歩を遂げており、PCで培われた技術をスマートフォンでも活かせる可能性が高く、今後は中国メーカーもおそらく多くのモバイルMMORPGを開発すると予想できる。

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叛逆性ミリオンアーサー

また、「サマナーズウォー」「セブンナイツ」といったスマートフォンゲームを原作としたMMORPGも開発されている。

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サマナーズウォーのMMORPG

以上のように、人気IPをひっさげてモバイルMMORPGに参入してくるメーカーがかなり多くなっている。

新規IPでは、日本のAimingが開発している「キャラバン ストーリーズ」や、ドイツのSandbox Interactiveが開発した「Albion Online」もスマートフォンで遊べるMMORPGだ。Albion OnlineはPCとスマホのクロスプラットフォームに対応している。
CARAVAN STORIESは1日で150万人の事前登録を国内最速で達成するなど注目度も高い。

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キャラバンストーリーズ

モバイルMMORPGの矛盾

スマートフォンゲームの強みは、シンプルな操作系と外出先でも短時間でプレイできるような手軽さにある。

しかし、MMORPGはお世辞にもお手軽なジャンルとは言えず、腰を据えてじっくり遊ぶタイプのものだ。
さらに同期型のゲームプレイであるために、移動中にちょっと遊ぶというプレイスタイルは向いていない。電車の中でレイドや攻城戦、GvGをやろうとする人はほとんどいないだろう。

さらに、画面に表示できる情報も限られ、マウスやキーボード、ゲームパッドのように複雑で細かな操作をすることもできない。MMORPGとして考えると、かなり制限され不自由な部分も多い。長時間プレイしたらバッテリーもあっという間になくなってしまう。

モバイルMMORPGは、「スマートフォンが最も普及したゲーミングプラットフォームである」という、ただその一点のために開発されているといっても過言ではないだろう。そしてその普及度の高さにより、今までMMORPGには一切触れたことがない層のプレイヤーを取り込むことができる。既にリネージュMやリネージュ2 レボリューションの韓国サービスでそれが発揮されている。

最適解を探す茨の道

モバイルゲーム市場はMMORPGの新たな主戦場と書いたが、まだ開拓が必要な険しい分野であるのには間違いない。

「リネージュ2 レボリューション」の出だしは最高だったが、韓国サービスは実質的に”リネージュMに喰われた”状況だ。8月にはサーバー統合も実施されるようだ。

「すべての人を満足させられるMMORPGは存在しない」という言葉が示すように、MMORPGは取捨選択が重要になってくる。
PCのMMORPGと比べれば開発コストは幾分か低いはずだが、それでも他のスマートフォンゲームと比べればリスクの高いビジネスであるのは間違いないだろう。

俯瞰視点・三人称視点、テーマパーク・サンドボックス、スキル制・レベル制、ターゲット・ノンターゲット、フィールド中心・インスタンス中心、オープンワールド・ゾーン、PvE・PvE、PKなど、ひとえにMMORPGといっても多種多様だ。それに加えてスマートフォンゲームならではの要素も加わってくる。

例えば、リネージュ2 レボリューションやリネージュMには”自動戦闘”が実装されている。おそらくほとんどのモバイルMMORPGには自動戦闘が用意されるだろう。
MMORPGジャンルのゲームではあるものの、他のモバイルゲーム同様に何かの片手間にできるような仕組みを導入しているのだ。普通のPC向けMMORPGであれば自動移動こそあれど、自動戦闘=BOTというような認識が大半だ。
何が正しいのかは、MMORPGのノウハウがある開発会社でも今の段階では手探り状態といったところだろう。

先述のように、今後多数のMMORPGがモバイルゲーム市場にやってくるわけだが、筆者の予想では現段階ではこれらの中で多くの人の御眼鏡にかなうタイトルは非常に少ないはずだ。
というのも、PCのMMORPGが長年抱えてきたいくつかの大きな問題が、モバイルプラットフォームになったから解決されるわけではないからだ。MMORPGが過去に経験したのと同じ問題をモバイルでも経験することになるのは目に見えている。

しかし、トレンドの変化により勢いを失いかけたMMORPGジャンルが新たなプラットフォームで息を吹き返し、再び活気づくのであれば非常に喜ばしい事だ。

果たしてモバイルMMORPGは長期的に通用するのか、そしていったいどのタイトルが人気を勝ち得るのか、今後ますます注目されることだろう。

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