日本では2022年4月20日でサービスが終了し、さらに欧米及び韓国では6月30日にサービスが終了することも決まった「TERA」。この記事では「TERA(テラ)」のローンチまでの出来事を振り返る。
TERAの歴史を語る上で欠かせないのが「リネージュ3」の存在である。
NCSOFT「リネージュ3」開発スタッフの離反
TERAを開発したBluehole Studio(ブルーホール・スタジオ)は、『リネージュ』シリーズ等の開発会社であるNCSOFTを退職したゲームクリエイターらによって2007年3月に創設された。

当時、NCSOFTで「リネージュ3」を開発していた11人が退社を決め、リネージュ3の情報等、NCSOFTの営業機密を使って韓国と日本のIT企業等から投資を誘致したと言われている。
この11人の退社と営業機密流出により、「リネージュ3」の企画は座礁することになり、今に至るまで「リネージュ3」はリリースされていない。
NCSOFTはBlueholeの創設者達、つまり、元社員らがリネージュ3の営業機密を流出させたとして、刑事告訴と民事訴訟を提起し、2014年まで法廷で争うことになる。刑事裁判では最終的に有罪判決が下っているが、民事裁判では被告の損害賠償責任は認められていない。
元を辿ると、リネージュ3の開発室長だったパク・ヨンヒョン氏がリネージュ3の開発チームを外部スタジオとして独立させたいと会社側に要求したことで、NCSOFTがパク氏をクビにしたのが発端だ。パク氏らリネージュ3開発陣は、NCSOFTの経営陣中心で閉鎖的な会社の構造を問題視していた。NCSOFTはリネージュ3の開発を中断させ、1ヶ月ほどかけて開発者達と面談を行い、この過程で90人ほどいたリネージュ3の開発スタッフのうち51人が退社、その多くはBlueholeに移ることになった。
NCSOFTは、リネージュ2とリネージュ3の間を埋めるゲームとして「Aion(タワーオブアイオン)」と、「プロジェクトM(=Blade & Soul)」を開発中だったが、奇しくも「Aion」はNCSOFTがリネージュ3を必要としないほど韓国市場で大きな成功を収めることになる。
「TERA」はリネージュ3を作っていたクリエイターらによるMMORPGだと考えることもできる。
プロジェクト S1
Bluehole Studioの設立から1年半後、TERAの開発コードネーム「プロジェクトS1」が、スクリーンショットと共に発表される。
プロジェクトS1は、初めてUnreal Engine 3を採用したオンラインRPGとして、そのグラフィックス品質の高さでオンラインゲーム業界を驚かせることになる。プロジェクトS1が発表されたのは2008年8月。当時、サービス開始を目前にして注目を集めていた「Aion」よりも見栄えが良かったからだ。
(※UE3採用MMORPGとしては、発表はプロジェクトS1が先だが、リリースはMortal Onlineが先)
プロジェクトS1の発表から数日後、NHNがプロジェクトS1のパブリッシング契約を発表する。NHNは「ハンゲーム」の運営会社であり、「TERA」がハンゲームを通じて提供されることが決定する。
正式名称発表・ゲーム映像公開・日本サービス決定
TERAの韓国サービス開始の2年前、2009年1月にハンゲームの新作発表会で「プロジェクトS1」の正式名称が、「TERA (The Exiled Realm of Arborea)」に決定したことが明かされる。
また、デモプレイの映像も公開されることになる。
▼新作発表会の会場で公開された「TERA」のプレイ映像
TERAは「次世代MMORPG」を掲げ、広大でシームレスなフィールドでノンターゲティング方式の戦闘が可能だと説明された。また、敵の攻撃を受けたり、ガードした際の、衝突や反動を忠実に表現するというのもTERAの特徴の一つだった。
TERAの正式発表から半年後、2009年8月に韓国で初めてクローズドベータテストが実施される。この時のテスターはわずか200人で、メディア関係者にすら参加権がほとんど配られず、強運の持ち主のみがテストに参加できたようである。

2009年10月、TERAの日本サービスに向けて、NHN Japanが独占契約を発表する。
NHN Japan,大作MMORPG「TERA」の国内独占契約を発表。ハンゲームでのサービス提供へ向け始動
2年のベータ期間
Blueholeは「ユーザーが満足するまでリリースせずに開発を続ける」という公約を掲げた。
第2次クローズドベータテストは3000人、第3次クローズドベータテストは2万人規模で行われた。
▼TERA クローズドベータテスト ティザートレイラー
驚く事に、開発段階のTERAには「ジャンプ機能」がなかった。クローズドベータテストの過程でテスターからフィードバックを受け、ジャンプが実装されることになったようだ。
TERAの開発は順風満帆ではなかった。ベータテストでは様々な問題が露呈し、Blueholeは第3次CBTから9ヶ月もの間、ベータテストをせずに開発に専念した。
TERA開発の逸話の一つに「クエスト」があり、当初「TERA」はクエスト中心のゲームではなかった。しかし、ベータテストのフィードバックで、カンストまでにクエストがなくなってしまうという意見が多く寄せられたようだ。2000年代のMMORPGではレベルキャップまでにクエストが常にあることの方が珍しく、狩りでレベル上げをするのは普通だったため、クエストが足りないという意見は開発チームにとっては意外だったようである。TERAのローンチ時のクエスト量は、ベータテスト時よりも遥かに多くのクエストが実装された状態だ。
「TERA」への注目がワールドワイドで高まったこともあり、Blueholeは複数の投資会社から18億円規模の誘致に成功し、30億円以上とされる開発費の大部分を調達したようである。
▼TERA 初期のトレイラー
エリーン種族の誕生
すっかりTERAの象徴的な種族となった「エリーン」だが、プレイアブルキャラクターとして実装されたのは、2010年11月に実施されたサーバー負荷テストだった。1次~3次のクローズドベータテスト段階では「エリーン」はプレイアブルキャラクターとしては実装されていなかった。
エリーンは当初、「ポポリ女性」として設定されていた。しかし、韓国のクローズドベータテストではポポリ男性のみが実装されていた。ポポリは動物の外見をした種族だ。
▼左:エリーン、右:ポポリ
エリーンという種族が公開されたのは、韓国サービス開始のわずか2ヶ月前のことである。
ポポリ男性とポポリ女性(エリーン)の外見があまりにもかけ離れており、同じ種族であることに違和感があったため、独立した種族として分離された。また、「子供のような見た目をしたキャラクター」に対して、その取り扱いに厳しい欧米でTERAをリリースする上で、エリーンを「木から生まれる」という設定にしておくことで融通が効くようにしたい思惑もあったと考えられる。
2010年のE3に合わせた公開された公式動画に1秒たりともエリーンが登場していなかったのは、今となっては驚きがある。
Blueholeは、北米でTERAをリリースするための子会社、EnMasse Entertainmentを設立する。
TERA 正式リリース
Blueholeの設立から実に4年。1が並ぶ2011年1月11日。午前6時という早朝に、TERAのオープンベータテストが開始された。
約半年後、2011年8月に日本サービスが開始。
BlueholeはSOEを退社したブレンダン・グリーン氏に声をかけ、Blueholeのクリエイティブディレクターに迎えて、「PUBG」を開発、大ヒットさせることに成功。Bluehole Studioは社名を「KRAFTON」に変更し、現在ではBlueholeはKRAFTONの中のスタジオの一つという位置づけである。
その後、TERAのスマートフォンゲームを連発した後、2022年4月で「TERA」日本サービスが終了。2022年6月30日で韓国サービス・欧米サービスが終了し「TERA」に幕が下りることになる。
コメント
食用気味だわ……